感想(旧HPより転載)
民族学校から公立高校へ進学した在日朝鮮人二世の青年(窪塚洋介)が美少女(柴咲コウ)との恋愛とその危機を通して、そして、まるで星一徹のように乱暴で横暴なボクサー崩れの破天荒な父親(山崎努)の多大な影響の下に、自らの触知する世界を押し広げようと奮闘する有り様を如何にも東映らしく熱く荒々しく描き出す青春映画の佳作。
ただし、ワイルドな暴力表現はいかにも東映的なのだが、民族差別を巡る表現は相当紋切り型で、教育映画を見ているような錯覚に囚われる。主人公を中心とした人物配置も実にステレオタイプで、予想に反してきわめて古典的な青春映画であり、そこが美点でもあり限界でもあるといったウェルメイドな商業映画である。もちろん、これは皮肉でも何でもなく、誉め言葉である。
TVドラマはほとんど見ないので、主演の窪塚洋介は初見といっても過言ではないのだが、まさに水を得た魚といった鮮烈な活躍を見せ、冒頭の体育館でのライダーキック(違うか)からして痛快。この主人公の前に立ちふさがり、文字通り鉄拳で叩きのめす凄腕親父の山崎努が近年出色の快演で、相当マンガじみたこの人物像をビールのCFで開眼した劇画風演技で演じきる。相手から勝ちをもぎ取るためには汚い手を使うことも厭わないこの親父が「こうやって、どうにかこうにか勝ちを拾って生きてきたんだ」と息子に述懐するシーンが実に秀逸。
実は行定勲の作品を観るのも初めてなのだが、導入部分の今風にスタイリッシュな映像設計は見せかけで、実は「赤頭巾ちゃん気をつけて」等の70年代の東宝青春映画の雰囲気を意図的に援用しているように思えてならない。国会議事堂前で待ち合わせて道路の白線を辿って彼女の家まで辿り着くシーンなどまるっきり森谷司郎の生まれ変わりのようではないか?