『極道の妻たち・赤い殺意』

基本情報

極道の妻たち・赤い殺意
1999/ビスタサイズ
(2001/8/3 レンタルV)
脚本/中島貞夫
撮影/水巻祐介 照明/沢田敏夫
美術/野尻 均 音楽/大島ミチル
監督/関本郁夫

感想

 夏祭りの最中に何者かによって暗殺された高須組組長(名古屋章)の二代目を継ぐことを始めは固辞していた堅気の長男(野村宏伸)は組のために獄中にいる幼なじみ(古田新太)の出所後を迎えるために襲名を決断するが、またも何者かの襲撃を受け命を落とす。大銀行グループと裏の繋がりを持つ総会屋(六平政直)に焚き付けられた古参幹部(中尾彬)が利権を横取りすべく画策していることを掴んだ長男の未亡人(高島礼子)は単身彼らの内懐に飛び込むが・・・

 岩下志麻の跡を継いだ高島礼子による極妻シリーズの第一弾で、レンタルビデオでの展開を主眼にした、実質的にはVシネマなのだが、制作規模はほとんど一般の劇場公開用の邦画と変わらない。なんだか東映京都撮影所が意地になって予算以上の仕事をしているのでは?という疑問さえ浮かぶほどの力作。

 関本郁夫の腰の据わった堂々たる演出ぶりと木村大作キャメラワークには辟易した眼には新鮮な流麗さを味わわせてくれる水巻祐介のキャメラ、そして大作「プライド」での骨太な楽曲で驚かせた大島ミチルがここでも硬軟自在に情感を際だたせて岩下版極妻では決して味わえなかった清新さを強くアピールしている。

 阪神大震災で父母を亡くした商社のOLが被災地で組長の息子と知り合ったばかりに極妻となり、最後には亡き旦那の讐に自ら立ち上がるという物語なのだが、この映画では主人公であるはずの高島礼子の扱いはむしろ低く、東映らしい群像劇としての魅力の方が大きい。

 中尾彬六平直政といった面々は予想通りの役柄を期待を裏切らぬ卑劣さで怪演し、特に六平直政東映映画らしいオーバーアクトが気持ちよく決まって天晴れ。しかし、組長の未亡人を演じる野川由美子が最強で、この人の巧さの前では高島礼子などまさに学芸会そのものだし、他の男優陣のアクの強さも白んでしまう。こうした古典的な意味で巧い役者にはもっと日本映画に出て貰わないと困るのだが、撮影所育ちの役者の演技を見る眼のある演出家でないと使いこなせないのかもしれない。その他、二宮さえ子、海野けい子、曽我野屋文童、諸星和己等、実力派からそうでない者まで実に多彩。

 組長の最も信頼する子分(永島敏行)も謀殺され、その妻(かたせ梨乃)と高島礼子が一計を案じて奸賊に死の制裁を加えようとするわけだが、いよいよ流血の復讐に向かおうとする高島礼子がウェディングリングを填めたりしするシーンは古典的な趣向ながら極妻の中で眼にすると何故か新鮮だし、復讐を遂げた二人をスローモーションで捉えたラストなども極妻らしからぬアクション映画の清冽さを湛えて出色といえる。

 旦那の死を知らされた幼なじみの極道者(古田新太)に面会室で大暴れさせて、切り返しでその怨念が高島に乗り移るようなトラックアップのショットを用意し、高島礼子が復讐を決意する心理描写を成立させた脚本と演出の表現力の逞しさは圧巻といえるし、群衆劇らしく多人数の登場人物をフレームの中に配置しながら、動きのアンサンブルを与える撮影所映画ならではの贅沢な演出がトップシーン始め到るところに用意され、今頃になって関本郁夫という演出家の力量を思い知らされる。

 森田富士郎の撮影が圧巻だった「東雲楼・女の乱」で幾つかの忘れがたい名シーンを産み出した、意外なほどの健闘が忘れがたいとはいえ、関本郁夫の真価が発揮されるのはまだこれからのようだ。

© 1998-2024 まり☆こうじ