感想(旧HPより転載)
’60年代ホラーの歴史をロジャー・コーマンやテレンス・フィッシャーらとともに担ったイタリア映画界が誇る怪奇映画作家マリオ・バーヴァの初期の代表作で、評者によれば最高傑作ともいわれる作品。
アメリカでは「BLACK SUNDAY」のタイトルで知られている作品だが、今回観られたのは英語吹替え版の上記タイトルのバージョンで、このあたりのバージョンの違いは不可解だ。このタイトルのほうが、オリジナル版の直訳になる。アメリカではオリジナルイタリア語版のDVDも発売されている。
中世の暗黒時代、魔女狩りで愛人とともに焼き殺された女は事実吸血鬼であった。200年後に蘇って、城主の子孫への復讐を果たし、自らとうりふたつの娘(バーバラ・スティール)に乗り移って永遠に生き延びようとするが、たまたま事件に巻き込まれて娘と恋に落ちた若い医師に見破られ、今度こそ二度と復活しないよう村民達によって入念に焚かれるのだった。
率直に言って、脚本自体はそれほど優れたものではなく、むしろ凡作といってもいいだろう。ロジャー・コーマンの諸作でリチャード・マシスンたちが書き下ろした脚本に比べれば、明らかに生ぬるい。
なんといってもマリオ・バーヴァの怪奇映画の魅力はその映像表現の深みにあるのだろう。特にこの作品ではモノクロ撮影による古城の地下室や霧深い森の中の描写が念入りな照明効果によっていっそうの怪奇映画的叙情を深めており、驚くべきことにその技術的完成度は極めて高い。低予算映画のはずだが、重厚で華麗なモノクロ表現の陰影の深さはまさに文芸映画クラスといってもいい。
ロジャー・コーマンのポーものも低予算作品のなかで独自の美術的センスによって怪奇映画的叙情を創出していたわけだが、それとほぼ同じような試みが、同時期に海を渡ったイタリアでも行われていたことは興味深い。
確かに、イタリア映画的などぎつい見せ場も所々に用意されており、有名な冒頭の悪魔の仮面のシーンでは血が吹き出し、魔女のミイラには徐々に眼球が復活するグロテスクさだ。だが、極めつけは仮面の内側に植えられた鉄のトゲで顔中に穴の空いた吸血鬼バーバラ・スティールとのキッスシーンに尽きるだろう。やはり、イタリア映画はここまでやるのだ!
夜霧の流れる森の中を怪しの者が乗った馬車がスローモーションで走りぬけるという夢のような幽玄美溢れるシーンがあり、おそらくティム・バートンも「スリーピー・ホロウ」で模倣していたはずだが、こうした簡潔極まる表現にはモノクロ撮影という条件がもっとも似つかわしいだろう。