『陸軍中野学校 雲一号指令』

基本情報

陸軍中野学校 雲一号指令(1966)
脚本・長谷川公之
撮影・今井ひろし 照明・伊藤貞一
美術・太田誠一 音楽・斉藤一
監督・森 一生

感想(旧ブログから転載)

 第一作のラストで中国へ旅立った主人公(市川雷蔵)が神戸へ呼びもどされて謎の軍船舶爆破事件の犯人を探るシリーズ第2作。

 長谷川公之の脚本には犯人グループの意外性など皆無で、例えば高岩肇のようなひとひねりしたプロットではないのだが、謎の中華料理屋(伊達三郎)や軍用犬を連れた主人公の大学時代の同級生(中野誠也)、謎の美人芸者(村松英子)といったいかにも一癖ありそうな登場人物達が想像通りに怪しい地下活動を展開し、陸軍中野学校の活動に不満を持つ憲兵佐藤慶)は敵組織に利用され期待通りに不幸な悪役として滅び去る。

 ところが実際はこの映画がサスペンス映画の一級品となっているのは、ひとえに森一生の演出による。「ある殺し屋の鍵」がシリーズ1作目の「ある殺し屋」にも劣らないサスペンス映画の傑作であるのと全く同じ理由によって、この映画も紛れもない傑作であり、日本映画の世界でハードボイルドな人物描写というものを極めてクールに映像化し、スパイ映画にフィルムノワールな香気をもたらした点は画期的とすらいえる。

 それらはひとえに、大映京都を代表するベテラン時代劇監督であった森一生の極めて得意な映像設計とそのリズム感がプログラムピクチャーの枠組みの中で突然変異を遂げた姿であったわけだが、それにしても低予算のお仕着せ企画にしては考えられないほどの豊かな映画的サスペンスを満喫することができる。そのことは、クライマックスでの芸者への詰問シーンのあざとい作為の全くない無駄を削ぎ落としたカッティングひとつをとってみても明白だろう。

 そのためには「大魔神逆襲」「ひとり狼」等で安定感ある確かな構図で風格溢れるキャメラワークを見せた今井ひろしの貢献も絶大で、大映京都としてはむしろ明るすぎるくらいの照明ながら、硬質なモノクロ映像とスコープサイズフレーミングを駆使してほとんど時代劇の手法をそのまま踏襲したかのような端正な映像設計をみせてくれる。しかも、冒頭には軍用船爆破のミニチュアワークまで披露してサービス満点なのだ。

 そうした舞台装置の中で市川雷蔵が独特の陰鬱なエロキューションで挿入するナレーションの効果も抜群で、その地獄の底から沸き上がってくるような不吉な音韻はこの映画の基本リズムを確実に規定している。

 それにしても憲兵を演じるのが戸浦六宏佐藤慶の創造社コンビというだけで、随分点数は甘くなってしまうのだが、人民の解放のため芸者にすり替わって情報収集に励む村松英子の仮面のようなポーカーフェイスぶりも巧いキャスティングで、市川雷蔵の柔軟な七変化ぶりも心地よく、小粒な配役陣ながら充実度はかなり高い。
(2000/12/26 スコープサイズ V)

© 1998-2024 まり☆こうじ