『なみだ川』

なみだ川 [DVD]

なみだ川 [DVD]

  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: DVD

基本情報

なみだ川(1967)
原作・山本周五郎 脚本・依田義賢
撮影・牧浦地志 照明・古谷賢次
美術・内藤 昭 音楽・小杉太一郎
監督・三隅研次

感想(旧HPより転載)

 彫金職人(藤原釜足)の姉娘(藤村志保)は極道者の兄(戸浦六宏)のせいで愛する若者のもとへ嫁ぐことを諦めざるを得ない妹(若柳菊)を縁付かせるため、兄に手切れ金として十両を渡して一札を取り、自分も密かに想いを寄せる飾り職人(細川俊之)に求婚されたと嘘をついて、妹を納得させようとする。だが、姉の世間知らずでおっちょこちょいの気性を知悉する妹は姉の思惑を悟り、逆に姉の思いを遂げさせようと心を砕き、姉も瓢箪から駒の幸せを掴んだと思ったその矢先、思わぬ横やりが入り・・・

 互いの幸せを思いやる姉妹のいじらしい気持ちを綴った山本周五郎原作の「おたふく物語」をたった78分にまとめ上げ、しかも山本周五郎らしい人の優しさと人情の機微を入念にかつ手堅く再現した極めて経済的に良くできた商業映画である。

 こうした題材を80分以下に仕立て上げるなんて芸当のできるのは、三隅研次以外に考えられない。

 同じく藤村志保、花柳菊のコンビによる「古都憂愁・姉いもうと」とあわせて三隅研次の抒情派としての資質の豊かさを見せつける小品佳作で、大ベテラン依田義賢の手堅い脚本に三隅らしい切れの良い映画技術が理想的に結びついたまさに珠玉の逸品。

 主演の藤村志保の演技はむしろ「古都憂愁・姉いもうと」のほうが優れていると思うが、その演技的なばらつきを原作のキャラクター造形の魅力が補って余りあるあたりが、まったく素晴らしいし、大酒のみで女癖の悪い飾り職人を持ち前の得体の知れ無さと色男ぶりを発揮して複雑な人物造形を実現した細川俊之の存在感も心強い。

 しかし、今回見直してもっとも心打たれたのは、極道者の兄を演じた戸浦六宏の存在感の大きさで、実際は何をしているのか判然としないが、天下国家のために働いているんだと言いながら、小さな幸せを求めてひっそりと暮らす姉妹の元へ現れては大金を無心するならず者が藤村志保が命を懸けて妹を守ろうとする決死の覚悟にその真情を汲み取って「もう、二度と来ねえよ」と言い置いて去るその何故か晴れやかな表情に人間味の純真さと得体の知れぬ複雑さを垣間見せて本編の白眉というべき名シーンとなっている。三隅研次の鋭角的なカッティング、牧浦地志の構図も見事に決まって、決して大きな役柄ではないが、脚本に書き込まれた以上の存在感を主張している。

 カット尻の詰まった編集を持ち味にする三隅研次にしては珍しく、人物のいない舞台だけを捉えた空画で締めくくるラストカットの鮮やかさも清々しく、崩壊間近の大映らしくかなりの低予算作品にも関わらず、映画的な愉しみの豊かさには驚くばかりだ。

 しかもこのビデオはおそらく数年前に行われた三隅研次リバイバル特集「白刃の美学」のために焼かれたニュープリントのポジフィルムからマスターされたものらしく、当時のフジフィルムの質感が正確に再現された貴重なソフトで、「怪談雪女郎」と同程度の品質を誇る良心的な製品である。さすが、大映ビデオ!

 三隅研次とは名コンビの牧浦地志による撮影は、いつもの比較的コントラストの強い立体的な照明効果ではなく、主演二人の女優を華やかに引き立てるべく大映京都にしては異様なほどに明るくフラットな配光を採用しており、正直言って多少違和感があるのだが、むしろ同じ大映京都出身の名キャメラマン森田富士郎が後年に東映で撮った五社英雄の諸作品や「蔵」等で主演女優を彩っていた透明で色彩豊かな大らかなライティングに近いものかもしれない。


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