『ジュブナイル』

基本情報

ジュブナイル
2000/ビスタサイズ
(2000/7/22 京都宝塚)
撮影・柴崎幸三 照明・上田なりゆき
美術・上條安里 音楽・川嶋可能
ビジュアルエフェクツプロダクション・白組
脚本&監督&VFX・山崎 貴

感想(旧HPより転載)

 ある日、森に墜ちてきた不思議な小型ロボット・テトラを拾った少年たちの、その後の人生を決定付けることになるひと夏の大冒険を描いたジュブナイルSF。

 CFや伊丹十三大林宣彦の映画等でお馴染みの技術集団・白組のメンバーで、佐藤嗣麻子の「エコエコアザラク」シリーズのビジュアルエフェクトを担当して斬新なアイディアとデジタル技術でその才能を印象づけた山崎貴のワンマン映画だが、強力な実力派スタッフのバックアップの成果もあって、デビュー作とは思えないほど充実した映画に仕上がっている。

 本領発揮の特撮シーンのレベルはハリウッド映画に決して引けをとってはおらず、フルCGのガンゲリオンのアクションなど、「実はハリウッドのSFXスタジオに発注したのだ」といわれても、なるほどと納得してしまうほどの出来映えだし、ボイド人の巨大な宇宙船の表現など、おそらく日本映画で描かれた最高の宇宙シーンといっても過言ではないだろう。

 もっとも、肝心のボイド人のCGについては、質感や演技や表情の振り付けの点で、ハリウッドの同様のシーンに肉薄するに至っておらず、コスト的な問題があるにせよ、ジム・ヘンソン的に造形物の操演で表現した方が、出来は良かったのではないかと思われるし、クライマックスのガンゲリオンとボイドスカウターの激闘も奇抜なアクションに関してはCG表現の自在さに軍配が上がるが、質感や力感では部分的にミニチュアを使用した方が望ましいのではないかという感は拭えない。ボイドスカウターが漁船を投げつけるシーンなども、豪快なアイディアが愉しいのだが、CGとエフェクト素材のデジタル合成の切り張り的な舞台裏が透けて見えて、肝心な豪快さが半減しているように見える。

 また、監督のグラフィカルな画面構成に悠々と応えてみせる「愛を乞うひと」「学校の怪談」シリーズの柴崎幸三の懐の深さに驚かされるキャメラワークの充実も見逃せないし、ガンゲリオンのコックピット等の特殊造形セットの出来の良さも美術スタッフのレベルの高さを見せつけてくれる。日本映画において東宝の美術スタッフが全くタッチしていないこの手の造形物で、これだけの質感を実現したのは初めてのことではないだろうか。

 ただし、初監督としてはかなりの成功を収めているとはいえ、肝心の少年達のドラマ部分の描き込み方が不足していることは否めず、もちろんそのことは脚本時点での問題点として認識されるべきものだと思うが、この映画の眼目である冒険を通じて少年が成長してゆくプロセスの描き方があまりに類型的だろう。あるいはここには粗筋しか描かれていないとでもいったほうが分かり易いのかもしれない。やはり、香取慎吾酒井美紀のロマンスに気を取られてしまったのが災いしているのだ。

 それから忘れてはならいのは、音楽(劇伴)の拙さで、せっかくの大アクションが一向に盛り上がらないのは、全く訴求力のない映画音楽の酷さにあることは明白だ。劇伴をもっと映画音楽らしいものに入れ替えるだけでも、主人公の少年のヒロインに寄せる想いの部分がもっと浮かび上がり、アクションももっと切れの良いリズムを刻むに違いないだろう。

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