『GAMERA1999』


GAMERA1999
1999/スタンダードサイズ
(99/3/13 V)
監督・摩砂雪 総監督・庵野秀明

感想(旧HPより転載)

 摩砂雪監督、庵野秀明総監督による「ガメラ3」の話題のメイキングビデオだが、メイキング部分と制作スタッフ間の軋轢を暴露した部分がどちらも中途半端になってしまったというのが残念ながら実感だ。怪獣映画の舞台裏の人間関係を赤裸々に明かすという極めて野心的な企画だっただけに、かなり惜しい。

 摩砂雪監督が自らデジタルビデオで撮影したメイキングシーンはミニチュアワークの現場の雰囲気を忠実に伝えて興味が尽きない。樋口組特有の異常に狭い舞台装置は誰がどう見てもアマチュアの8ミリ映画の撮影風景にしか見えないという恐るべき現実。デジタル技術に典型的なように合成技術の飛躍的な進展により、いくら特撮映画に占めるミニチュアワークの比重が減ったとはいえ、特撮映画の舞台裏のあまりに貧相な現実のありさまには涙を禁じ得ない。日本の特撮映画には”箱庭特撮”という別称(蔑称?)があるが、これはもはや”四畳半特撮”だ。東宝特撮に代表される”箱庭特撮”すらスタジオシステムの強固な基盤のうえに初めて成り立つ極め付きの贅沢品なのだ。

 ただ、逆に言えば、そうした極めて狭い貧弱なスタジオしか使用できなくてもデジタル合成とCG技術を組み合わせることで、ほとんどどのような特撮映像でも創り上げることができるところまで日本映画の特撮技術も確実に進展を遂げてきていることについては、特撮暗黒時代を耐え抜いてきた我々素人ファンとっても誇張ではなく真実奇蹟のように思えるのであった。

 そのことが一人樋口真嗣の手によってなしとげられた訳ではないのは確かだが、彼の登場は後年に綴られるだろう日本特撮映画史上において、川北紘一の次くらいに位置し、ただし、より大書されることになるのは間違いないであろう。

 ただ、このビデオではステージでのミニチュア撮影が中心で、せっかく最新技術を投入したデジタル合成やCG作業の詳細にはほとんど触れられず、特撮映像の出来上がるプロセスの技術的なおもしろさについては完全に無視されている。

 一方、庵野秀明が主に担当したのが制作スタッフ間の軋轢を捉えた部分で、特に浅黄を登場させるか否かを巡る金子監督とプロデューサーとの確執と、撮影後半で表面化する金子修介樋口真嗣の解釈の相違による特撮映画の2班体制による弊害を告白したところに赤裸々なおもしろさの片鱗が表れてはいるのだが、その具体的な内容や顛末についてはいくらなんでも封切り公開中の現時点では公表できない性質のものなので、せっかくの興味深い問題がこのビデオの完成品の中では明確に突き止められてはいない。ひょっとすると封切り終了後にディレクターズカット版が再編集されて、この部分のみで1本のドキュメントが完成されれば、後年の特撮映画スタッフにとっても重要な示唆を含むものができるのではないかと思うのだが。

 で、このパートで樋口真嗣と同等に扱われるのが制作プロデューサーの南里幸と特撮班助監督の神谷誠という、体型、風貌ともに奇妙なほど似通った人々で、「ガメラ3」の早すぎる総括まで披露してみせるのだが、金子修介じしんが「プライベートフィルムのようだ」と述懐するこの映画に対する特撮スタッフの反応はきわめて冷淡だったことがよく判る。そして、気弱なヲタク樋口真嗣が先輩ヲタク金子修介に対して真っ正面からぶつかって自説を主張できないというヲタク世代特有のコミュニケーション不全まで暴露され、南里プロデューサーから叱責されることになる。

 たしかに、あの弱腰では普通の映画監督とのコラボレーションは不可能だろう。いっそのこと、恐いのでは有名な東映京都撮影所にでも出向させて、樋口真嗣を一から鍛え直してはどうだろう?

 それにしても、本編監督と特技監督の間に必ずしも良好な意志疎通がないにもかかわらず特撮映画としては極めて上質の作品が生み出されていることには奇妙な感動をおぼえたのも事実だ。このあたりは、特撮ヲタクとしてだけではなく、一社会人として見ても重要な示唆を含んでいるように思われる。

 樋口真嗣自体にガメラというキャラクターに対する愛着がもともとなかったことは明らかだったが、特撮スタッフ陣もガメラそのものではなく、樋口真嗣との協同作業自体に価値を見いだしていたきらいがある。もっともそう思わせるようにビデオが意図的に編集されているようなのだが、神谷誠が撮影現場で頻繁に口にする「死んじゃおッかな」という言葉には、意に染まぬ企画または脚本に付き合って、しかも遅々として進行しない、何時になったらクランクアップに至るのか見当もつかない地獄のような撮影現場に特有な自暴自棄と疲弊してゆく自尊心が顕れているのだろう。しかし、自尊心を切り売りした結果が、あれだけのクォリティで仕上がっていれば、本望というものではないか?むしろ、本来達成可能な品質の何割かを涙を呑んで割り引かざるをえなかった「ガメラ大怪獣空中決戦」の時の精神的ダメージのほうがよほど大きかったのではないかと、部外者は勝手に推量するのだが。

 特撮映画の撮影現場をアダルトビデオの方法論でドキュメントするというのが庵野秀明の狙い目らしく、いきなり冒頭からカンパニー松尾林由美香、それになぜか高橋源一郎なども登場したりするのだが、もちろん単なる怪獣好きの純真無垢な私には何のことだかさっぱり分からない。

 端的に言って、純粋なメイキングと制作スタッフのドキュメントは別立てにして、2本のビデオとして完成させるというのが常識的な判断だったろうと思う。

コメント

(2023/6/5記)
■南里幸は現在、甘木モリオとして大活躍中です。シネバザールの所属プロデューサーですね。

■このビデオ作品は結構貴重な内容を含んでいると思うのですが、かなり微妙な編集具合になっているので、変な波紋を呼ぶたぐいの内容です。ちょうど庵野秀明の言動を追った『ドキュメント「シン・仮面ライダー」~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』と同様にね。

■映画制作の現場でいろんな軋轢があるのは、昔の撮影所システムと違って、その都度寄せ集めのスタッフが何十人も集まるわけなので、統制は取り難く、当たり前とも言えますから、普通の観客は知る必要もないわけです。予算もキツイし、撮影日程も厳しいし、トラブルはつきものだし、人間関係ももつれだすし。個人的には、そうした映画製作という一時的な組織体のなかで、どんな確執や対立や軋轢が生じて解消されてゆくのか、あるいはどう折り合いをつけるのかというのは非常に興味深いテーマですが。

■というか大好物なので、映画の舞台裏での揉め事はわたしにとってはお気に入りのデザートなんですよ!でも、特撮班には役者がいないだけマシなんですけどね(スーツアクターは我が強くないから)。スター俳優まで絡むとホントに大変だと思います。お察しします。

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