『ラストサマー』

ラスト・サマー
(I KNOW WHAT YOU DID LAST SUMMER)

感想(旧HPより転載)

 独立記念日の夜、高校生4人組はドライブ中に誤って人を轢いてしまう。発覚を恐れた彼らは、死体を海に沈めるが、1年後「去年の夏、何をしたか知ってるぞ」という脅迫状が舞い込み、黒ずくめのレインコートの男に命を狙われることになる。弁護士志望の女子大生が中心となって、犯人探しに奔走し、被害者の親友が怪しいと睨むが、実は一昨年の夏に恋人を誤って死なせてしまった被害者は彼らと同じように脅迫を受けて自殺を図ったものと判明する。

 脚本家・ケヴィン・ウイリアムソンが前作「スクリーム」同様、連続殺人鬼の恐怖と犯人探しのサスペンスを巧妙に組み立てたウエルメイドのサスペンス劇ではある。その意味では、この脚本家は確かに実力派といえる。

 しかし、「スクリーム」でもそうであったように、この脚本家はそもそも怪奇映画の作家ではないし、また真摯に怪奇映画の復権なり、継承といった事柄を考えてみたこともない、いわば怪奇映画とは無縁の存在であるはずだ。そのことが十分に理解されていないのは嘆かわしいことだ。

 また、同様に演出家も怪奇映画がどういったものであるのかという内省を欠いており、サスペンスとは言ってみたものの、内実はショッカー(スラッシャーというらしいが)と呼ぶのが相応しい演出で、今回の演出家もウェス・クレイブンと大差なく、怪奇映画がショッカーに堕して以降使い古されて磨耗しきった手法を、相変わらず後生大事に繰り出してみせることに終始するのは、今時観ている方が気恥ずかしいほどだ。

 ただ、交通事故の被害者の姉を演じるアン・ヘッシュの静かな怪演には鳥肌が立ったが、これは演出家の善導というよりも、正真正銘の性格俳優たる彼女の役柄に対する解釈の深さと捻れた感性がもたらした僥倖というべきだろう。「ウワサの真相」との、この落差に慄然としつつ、今後の女優としての方向性に誤りのないことを愛を込めて祈りたい。

 黒沢清中田秀夫、鶴田法男といった演出家に小中千昭高橋洋といった脚本家を擁し、突如怪奇映画の牙城と化してしまったこの日本映画界のレベルから比べると、まるで子供だましだ。同じショッカー狙いでも、「血を吸う」シリーズの山本迪夫の的確なカッティングには遠く及ばない。
(98/6/6 京都朝日シネマ スコープサイズ

コメント

■われながら、怪奇映画とショッカー映画の区別がまだ着いていない時期の感想ですね。とにかく怪奇映画が好きなので、ショッカーとかスラッシャーも怪奇映画っぽくして欲しいという個人的な趣味嗜好があります。実際そうした作風の映画もあるわけですが、怪奇映画じゃなくて、純粋なショッカーとかスラッシャーを作者は作りたかったわけでしょうね。その方が受けた時代だし。

■なんで今さらサルベージしたかといえば、アン・ヘシュについて触れていたから。昨年不慮の事故で亡くなってしまったのは、ホントに残念ですよ。好きな女優だったから。良い女優だったから。それゆえに、もう一度見直そうかなあと考えている。

■しかし、ずいぶんイキった高飛車な感想文ですな。

© 1998-2024 まり☆こうじ