僕もおじさんのように大暴れして、敵の首を斬る!少年、それでいいのか?『風とライオン』

基本情報

The Wind and the Lion ★★★
1975 スコープサイズ 120分 @NHKBS

感想

■1904年にモロッコで発生した、イスラムの首長ライズリによる米人イーデン母子誘拐事件の顛末をジョン・ミリアスが劇化した冒険映画。ロジータ・フォーブスの小説『リフ族の首長』の映画化らしい。米国は世界戦争も辞さずとの構えでノリノリで軍艦を派遣して、タンジールを制圧する。一方、誘拐された母子はライズリの男ぶりと高潔さに惚れて共感を寄せてゆく。母子を開放したライズリはドイツ軍に捕らえられるが、怒った母子は彼の救出に向かう。。。

■スペインロケで雄大な情景を生かしたアクション場面が結局は売り物で、西部劇でもあり、黒澤映画でもあるという、ジョン・ミリアスの趣味が横溢した映画。ショーン・コネリーに『隠し砦の三悪人』の三船の真似をさせたり、子供っぽいよね。

■でも映画としてはいま一つで、むしろ後の『コナン・ザ・グレート』の方が素朴に面白い。誘拐された少年がライズリのマチズモに感化されて俺もイスラムの首長になって敵の首を斬る!と盛り上がるあたりは面白いけど、市川森一帰ってきたウルトラマンの「ふるさと地球を去る」で描いたような深いテーマ性はない。やっぱり、ジョン・ミリアスって子供っぽいのかなあ。

■ライズリは孤高のライオンで、ルーズベルトイスラムの地にいっとき吹きあれた風に過ぎないと語られるが、このふたりは当然対面しないし、直接話しをするわけでもないので、両者の間に互いの琴線に触れる部分が描ききれていない。アメリカは森の孤独な覇者グリズリーなのだと、熊に仮託するルーズベルトの心象の描き方は面白いのだけど、孤独なリーダーはむしろ敵のリーダーと共感するものなのだと述懐するのは、なかなかスッキリとは理解しにくいよね。とにかく映画としては、いち部族の首長に過ぎないライズリが、なんでそこまでルーズベルトの意識の中で大きな位置を占めるのかという点が、すんなりと飲み込めないのが最大の弱点かな。

■クライマックスの大乱闘も、大味な西部劇のそれで、アクション演出も『コナン』のほうが洗練されていた気がする。あれやこれやと考え合わせると、シュワの『コナン・ザ・グレート』て、意外といい映画だったんだなあと思えてきたよ。

■ちなみに、音楽はジェリー・ゴールドスミスで、映画自体はほぼ忘れられた映画だけど、テーマ曲はけっこう有名らしい。実際、聴き応えがある。以下のCDでも日本フィルが演奏しているけど、オリジナルのサントラより出来が良いかもしれない。日本フィルのサントラ演奏には定評があるらしく、実際、かなりの名演がある。なんだか廉価版みたいなCDがいくつも発売されているみたいだけど、演奏も音質も良いので、実はお買い得なのだ。公立図書館などにも多分所蔵されていると思う。ヘンリー・マンシーニの『スペース・バンパイア』なんてサイコー!


凡作だけどマッケンナ・グレイスが主役だから悪い気はしない『ゴーストバスターズ フローズン・サマー』

基本情報

Ghostbusters: Frozen Empire ★★★
2024 スコープサイズ 115分 @TJOY京都(SC11)


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感想

■地方都市を舞台としてジュブナイルに仕立て直した前作『ゴーストバスターズ アフターライフ』が意外に上出来ったけど、本作は監督が交代しているので、どんなものかと映画館に出かけました。しかも吹替版なので、非難轟々の(?)新しい学校のリーダーズのMVが流れます。正直、あまりいい出来ではありません。


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■お話は単純で、一家がNYの例の元消防署でゴーストバスターズ稼業を続行中だけど、謎の遺物の封印を解いてしまったから、NYが凍りついてさあ大変!というもの。正直このシリーズって、ゴーストに対する愛が最初から一貫して、無い。そこはもう徹底している。だから、怪奇好きには基本響かない。ガラッカという邪神も、まあどうでもいいレベル。

■でも主演がマッケンナ・グレイス(吹き替えは上白石萌歌!)ってところで支持したい。前作に比べると当然成長していて、すでに隠しようもない美少女だけど。前作はまだ男の子に見える加減がとても良かった。実際、映画の途中まで男の子だと思ってた。本作でもecto-1の銃座に乗ってゴーストをチェイスする場面はあるけど、ギミックの見せ方も含めて前作の名場面には到底及ばないから残念だ。幽霊少女との交流なんてのもいかにもいい塩梅の泣かせる設定だけど、十分に展開できていないし、正直陳腐なのは勿体ない。今回はそこがジュブナイルとしてのキモだったのにね。マッチの伏線は悪くないけど。兄のフィン・ウルフハードという若手も、面白い個性なのに、前作のほうが良いよね。

■一方で、オリジナルのゴーストバスターズの面々もハロルド・レイミス以外は健在で、再集結する。まだまだ俺達は人生の黄金期だ!とハッスルするあたりは、シニア層に訴求して、感涙を呼ぶ(?)

■前作で逆光を生かしたロケ撮影が非常に秀逸だった撮影監督のエリック・スティールバーグも続投だけど、今回はごく普通の仕事ぶり。前作は特別だったんだなあ。それはやはり監督のジェイソン・ライトマンの才能によるものだったのだ。


信心のない人生は偽物の人生だ!?社会派母もの映画の古典『悲しみは空の彼方に』

基本情報

悲しみは空の彼方に ★★★
1959 ヴィスタサイズ 125分 @NHKBS

感想

■1947年に出会った貧しい二組の母娘は一緒に住み始めるが、白人の母ローラは野心家の女優でNYで頭角を表し、黒人の母親アニーは、一見白人に見える娘から敬遠されてゆく・・・

ダグラス・サークの代表作の一本で、とにかくその筋では有名なメロドラマ。とういか、典型的な母もの映画ですね。特に、黒人の母親から生まれたけど、外見上は白人にしか見えない娘と母親の軋轢が描かれるのがユニークだし、社会派映画の一面を持つ。というか、むしろ社会派映画として専ら生き延びているのかも。

■何十年か前に、確かスペースベンゲットで観ていると思うけど、あまり記憶になくて、冒頭のビーチの場面とラストの葬儀の場面くらいしか印象にない。なぜかというと、テーマが鮮明に出ていないからだろう。

■結局何がいいたいかといえば、二人の母親の姿を対比して、舞台女優として野心に燃えるローラの「偽物の人生」に対して、子どもの幸せだけを願って平凡に生きて死んでいったけど常に信心深かったアニーの人生が本物の人生であったということなのだろう。自分の葬儀だけは自分の思い通りに言いおいて死んでいったアニーが、教会を拠点として絆を結んできた地元の仲間たちに盛大に送られる、その人生こそが本当の人生だったということだ。なぜなら、映画を観に来る観客のほとんどが、アニーのような人生を送るからだ。だからローラがそのことに気づいて自省するという描写やセリフがあればわかりやすいのに、なぜかそんな描写はない。だから単なる母もの映画に見えてしまうのだ。また、黒人の血を引きながらそれを隠して白人として生ようとする娘の人生も「偽物の人生」だと断定する。アニーの娘サラジェーンもまたいかがわしい芸能の世界に活路を求める、いや逃避するのだが。

■ローラはハリウッドで舞台俳優となるが、劇作家の夫と死別後、NYで起死回生を図るが、幸い舞台女優として成功し、イタリア映画に招かれる。でもその一方で、10年来の恋人スティーブ(ジョン・ギャビン)とはついに結婚できない。それが虚飾の人生を追い求めた代償だからだ。もともと原作小説では女優ではなかったのに、敢えて芸能界の虚妄を描こうとする脚本陣の自虐。

■当然ながら配役はしっかりしていて、ローラの娘もアニーの娘も二人一役だけど子役のそっくりぶりもナチュラルだし、サンドラ・ディーとスーザン・コーナーも力演する。特にファニタ・ムーアとスーザン・コーナーの母娘役は儲け役だよなあ。最後にゴスペルを披露するのはマヘリア・ジャクソンという有名な歌手で、「ゴスペルの女王」と呼ばれる歴史的な大物だそう。


参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
母もの映画はお涙頂戴の通俗映画として軽蔑されたけど、なかには社会派映画が混じっていて、八住利雄が書いた『嵐の中の母』なんてのもあったけど、未見。
maricozy.hatenablog.jp

いまさら大英帝国賛美?の没入型体感映画『ダンケルク』

基本情報

Dunkirk ★★★
2017 スコープサイズ 106分 @アマプラ

感想

■第二次大戦中のダンケルクの戦いからの英仏兵士40万人の撤収作戦(ダイナモ作戦)を描く戦争映画大作。のはずが、実に奇妙な塩梅の映画なのは、クリストファー・ノーランが構想し、監督したから。普通の戦争映画ではない。ダンケルクの戦いからなんとか生還しようとする英国兵の姿と、撤収作戦を支援する戦闘機乗りと、撤収作戦に徴用された英国の民間商船の3つのエピソードを描くけど、ドラマらしいドラマはないので、評価が分かれると思う。

■基本的に、IMAXなどの体感型アトラクション映画として製作されていて、実際の撮影も大半がIMAXキャメラを使ったフィルム撮影。それは技術的には凄いんだけど、観客にとって何の得が??実際に戦場に投げ出されたような「没入感」を体感してくださいという趣向だけど、戦争映画なんだから、戦争に関するそれなりの意思表示は必要だろう。撮影監督は売れっ子のホイテ・バン・ホイテマで、叙情的かつドキュメンタルな秀逸な場面がいくつかあるものの、映画のドラマ性の弱さは如何ともし難い。もちろん、ノーランは最初からドラマ性は捨象しているだろうが。

■基本的にCGは使わない主義らしく、飛行機も艦船も実物を用意して撮ったらしいけど、特に空戦なんて実機で撮ると、まるで60年代の戦争映画みたいで撮れる画角が限られるので、途中でいい加減飽きる。特撮とかCGによって空戦描写は格段に進歩したのだ。ということを逆に実感する。本作のVFXはダブル・ネガティブが担当してるけど、3DCGによる被写体は生成していないようだ。

■そもそも、40万人がナチスの侵攻から脱出を待っているという事態なのに、そのスケール感が全く描かれないのは困ったことで、実物主義に拘泥するために、かえって作戦規模の呆れた膨大さを描ききれていない。


めぐるめぐるよ因果は巡る。因果な母子の、その行く末は…かなりの力作だった『サイコ2』

基本情報

Psycho II ★★★☆
1983 ヴィスタサイズ 113分 @アマプラ

感想

■もちろん昔観ているけど、映画館ではなく、レンタルビデオで観たはず。封切り当時もわりと批評家筋の評判が良かったはずだけど、個人的にはあまり感心はしなかった。ただ、メグ・ティリーのキュートさだけがなぜか強烈に印象に残っている。

■精神病院を退院して責任能力なしとして無罪放免されたノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)は、結局実家に戻るしか無い(やめとけよ!)が、バイト先の小娘(メグ・ティリー)が妙に親切なのでついつい家に誘ってしまう。でも、同時に死んだはずの母親からのメッセージが届くようになり、ボクまた狂っちゃったのかなあと不安になる。さらにはボクちゃんの周りで失踪者が出て、ますます不利な立場に。。。

■もともとの原作者のロバート・ブロックも『サイコ2』という小説を書いたけど、映画はそれを使わず、トム・ホランドのオリジナル脚本を用意した。監督は本作のあとの『リンク』が良かったリチャード・フランクリンで将来を嘱望されたのだが。。。むしろトム・ホランドがその後躍進して、『フライトナイト』『チャイルド・プレイ』という傑作を撮った。

■改めて見直すと、リチャード・フランクリンの演出は意外と大人しくて、特に前半はサスペンスとかショッカーではなく、じっくりとドラマを見せる姿勢。だからアンソニー・パーキンスの神経衰弱演技も、親子くらい年の差があるのにそれを姉さん気質で支えるメグ・ティリーのしっかり者感なども説得力がある。なので、いわゆるジャンル映画的なステロタイプな映画ではない。いい意味でね。

■中盤に大きな捻りがあり、その描き方も実にあっさりしている。今どきの映画ならもっとあざとく見せるところだろうけど、実にさらっとネタを明かしてしまう。もちろん、オリジナルの『サイコ』を踏襲しているが、大成功。そして後半はノーマン・ベイツの母子関係と、メグ・ティリーの母子関係が対比されるという、なかなか高等な作劇に突入し、終盤にさらに大ネタを披露するから、たしかにこれは演出的にというよりも、脚本がよくできている。この脚本なら、確かに玄人筋も納得せざるを得ないよね。

■ただ、ディーン・カンディの撮影がいかにも80年代テイストで、今観るとさすがに残念な感じは否めない。むしろ今のデジタル機器で撮影したほうがより硬質な画調になるだろうし、より怪奇映画的なタッチになっただろう。SFXはアルバート・ホイットロックが担当して、かなり大規模な作画合成を中心に、オーソドックスな大活躍。このあたりもSFX映画というよりも、それ以前の特撮時代の雰囲気。

アンソニー・パーキンス神経症演技はもちろんしっかりしているし、演出もギミック的なあざとさよりも役者の演技でサスペンスを生み出す手法で成功している。そこにはメグ・ティリー(ティム・カリーじゃないよ!)の配役の成功が大きく、親子ほど違うカップルの関係性に妙な説得力を生んでいるから侮れない。そこが成立しないとこの映画の成功はなかった。メグ・ティリーは本当に良くて、演技の質云々ではなく、無二の存在感を示す。対して、オリジナル版から続投のヴェラ・マイルズの扱いは酷くて、気の毒なほど。もちろん、脚本上の要請なので、女優としては求めに応じて的確に演じあげるわけだけど、よく受けたよなあ。。。まあ、趣向としては大成功だけど!


参考

トム・ホランドの『フライトナイト』は傑作でした。
maricozy.hatenablog.jp
リメイク企画は失敗でしたね。。。
maricozy.hatenablog.jp
このリメイクもいまいちでした。
maricozy.hatenablog.jp
いまやヒチコックもすっかりセクハラ親父扱いですね。
maricozy.hatenablog.jp

あなたの最期は私が看取る!今こそ観るべき友情とスポ根の実話『ナイアド その決意は海を越える』(感想/レビュー)

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基本情報

Nyad ★★★☆
2023 スコープサイズ 120分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■ドキュメンタリー畑出身のエリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チンの夫婦監督(!)が描く、伝説のマラソンスイマー、ダイアナ・ナイアドの偉業。ネットフリックスの製作だけど、劇場公開中なのだ。

■その偉業とは、64歳にしてキューバーフロリダ間180キロを53時間かかって泳ぎきったこと。若い頃に一度挑戦して失敗した経験があり、60歳を超えてからの一念発起、実に5回目の挑戦でついに成功する。

■もちろん最終的に成功したから映画化されたわけだけど、もちろん、そこに至るスポ根要素は興味あるとことだし、たったひとりで成し遂げられる事業でもない。現実的にはコーチも含め、様々な専門家チームによる支援が必要だった。サメ避けの専門家、クラゲの研究者、潮流の専門家。当然のこと、そうしたチームワークの成功でもある。ある意味、『七人の侍』である。だから燃える。特に難題は、サメよりも毒クラゲ対策だった!

■主演をアネット・ベニング(65歳)が演じ、その友人というか魂の恋人である同士ボニーをジョディ・フォスター(60歳)が演じる。両者とも、往年の大物美人女優だけど、何が凄いといって、各人、年齢相応の役柄をほぼノーメークで演じる。当然ながら照明部も変な女優ライトは当てない。だから、顔の皺の刻みも、首筋の縦じわも、体型のたるみも、何もかもドキュメンタルに晒しだす。(それどころか、アネット・ベニングはクラゲよけの奇怪なマスクまで被って、誰だかわからない!)CG補正もない(多分)。そこが最大の見ものだし、それでこその映画。そのリアルな年齢感を描き出すから、私はまだ終わってない!というテーマが輝く。軽率に「劣化」などと呼ぶものは呼べばいい。その皺は人生の経験と智慧が刻み込まれているのだし、その内奥に秘めた魂は死ぬまで「劣化」しないのだ。

ちなみに、日本では吉永小百合岩下志麻浅丘ルリ子といった大女優がこんなふうに年齢相応の素顔と素肌を晒して演じることはほぼありえない。
特にスイマーでもある吉永小百合は、おそらくこの映画に興味を持って観るだろうけど、なんと思うのだろうか。わたしにはアネット・ベニングの真似はできないと思うのか、これなら私だってできる!わたしもこんな役がやりたい!と感じるのか?

■しかも、人物像造形がユニークなのは、明確にレズビアンの映画であり、性的虐待の映画である点で、ダイアナとボニーはレズビアンコンビとして描かれる。映画ではあくまで精神的な友人であるという描き方になっている。ナイアドの唯我独尊な態度に愛想をつかして去ったボニーが戻って来る場面は、あなたの最期はわたしが看取るからのセリフとともに素直に感動的。14歳のときに水泳のコーチに性的虐待を受けていて、その後も水泳会の大御所として君臨し続けたという件は、いま日本で話題のあの事件にそっくりな構図で、まさに今観るべき映画。

■ちなにみに遠距離水泳の場面には嵐の場面などもあり、相当なVFXが駆使されているが、アネット・ベニングの水上シーンでもデジタル合成が利用されているカットがあったような気がする。幻覚シーンなどは当然分かりやすいCGだけど、ナチュラルなロケシーンに混ぜ込んであったような気がしたけど、どうだろう。メイキング記事が気になる。なにしろ撮影監督は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『オブリビオン』『トップガン マーヴェリック』などのクラウディオ・ミランダだから、豪華スタッフなのだ。

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死霊館ユニバースも末期的?トホホな残念作『死霊館のシスター 呪いの秘密』(感想/レビュー)

基本情報

死霊館のシスター 呪いの秘密(THE NUN2) ★☆
2023 スコープサイズ 110分 @イオンシネマ京都桂川(SC12)

感想

■1956年、フランスの教会をはじめ、西欧各地で聖職者の変死事件が連続し、その異変はルーマニアから西進しつつあった。かつて聖カルタ修道院で悪魔を駆逐したアイリーンにバチカンから調査命令が下る。信仰に確信が持てない黒人の修道女が志願して同行するが。。。

■『死霊館のシスター』の続編で、フレンチーも再登場する。奇跡を信じられない黒人修道女とアイリーンがバディになるところとか、悪魔ヴァラクを封じたアイリーンが伝説の修道女として語り継がれているとか、ワクワクする道具立てが登場する序盤は悪くなくて期待させるのだけど、実は監督のマイケル・チャベスは虚仮威し頼みで全くドラマを語る気がないので、その後はグズグズになる。そもそも前作もアトラクション映画志向が顕著でドラマ性は薄かったのだが、本作は完全にアトラクション映画重視の姿勢。中盤以降、ドラマ性はなくて、薄暗い舞台設定のなかでわーわーキャーキャー言ってるばかり。

■使用人のモリース(フレンチー)が寄宿学校の少女と仲良くなってるあたりの怪しさを狙っているのかと思いきや、その母親ともいい感じで、そこに淫靡な何かを描こうとするのかというと、そうでもなく、ドラマが成立しない。そこに、昔の彼女アイリーンがやってくるので、これもいくらでもドラマを構築できるところなにに、そんな気もない。黒人修道女が奇跡の実在を認めるエピソードでさらりと泣かせるのかとおもいきや、そうでもなく、全く良いところがない。正直、終盤は眠くてしかたなかった。

■これまでの作風をみてもマイケル・チャベスはどうも怪異描写に全くこだわりがなくてちっとも怖くもないし、そもそもドラマ的なサスペンスを放棄した時点で負けは決定的だ。序盤の設定紹介からして活劇志向の構図を引いたのは悪くないのに、それなら、ちゃんと活劇としてのサスペンスやキャラクターの決着を描かないと、単なる大味なアトラクション映画にしかならないわけで、結果はかなり予後の悪いものになった。死霊館ユニバースもいよいよ末期的だなあ。


参考

マイケル・チャベスは単純に筋が悪いのだ。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
前作「死霊館のシスター」はかろうじて工夫の跡がみられたけれど。。。
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わが子はサイコパス?サイコスリラーの古典的傑作『悪い種子』

悪い種子(字幕版)

悪い種子(字幕版)

  • ナンシー・ケリー
Amazon

基本情報

The Bad Seed ★★★★
1956 ヴィスタサイズ 130分 @NHKBS

感想

■8歳の娘(パティ・マコーマック)の遠足で同級生の男子が海で溺死する。溺死の直前に娘と男の子が争う様子を目撃した者がいるというが、娘は知らないという。でも、男子に負けて貰えなかったことを悔しがっていた作文賞のメダルが、なぜか机の中から見つかる。。。まさかうちの娘が?一方、屋敷の使用人(ヘンリー・ジョーンズ)は娘の意地悪な性癖に気づいて、男の子を殺したに違いないと睨んでネチネチとカマをかける。。。

■ウィリアム・マーチが小説を書き、ブロードウェイで舞台化されて大ヒット、ほぼそのままの配役で映画化された問題作。監督はマービン・ルロイだけど、ほとんど舞台中継のような演出になっている。ホラー映画のような映像表現や照明効果は全くなしで、基本的には科白劇。なので、演技もやや演劇的で、演技の見せ場もところどころコテコテ。映画的に洗練はされていないけど、でも面白いものは面白いから問題なし。ストーリーラインだけなら、ロバート・ブロックでも書きそうな内容なんだけど、科白劇としての趣向をふんだんに盛り込んだあたりが本作の特徴だろう。ロバート・ブロックなら90分程度になるからね。死んだ男の子の母親(アイリーン・ヘッカート )が泥酔して怒鳴り込んでくる場面など、いかにも舞台的な趣向と演技だけど、さすがに演技的に見ごたえがある。

■8歳の娘への疑念がむくむくと湧き上がるサスペンスに対して、犯罪者の資質は遺伝か環境かという問答が中盤におかれ、良心を持たないサイコパスは実在することも語られる。そして、過去にヒロイン(ナンシー・ケリー)の父親が新聞記者として扱ったサイコパス殺人鬼の女の存在が気にかかってくる。その女には子どもがあったというが。。。このあたりはいかにもご都合主義にも見えるところだが、まあ、そのほうがお話が面白くなるからいいのだ。

■演出的には、ほんとに舞台劇の映画化という企画の性格を重視したように見え、普通のホラーとかサスペンスならここが重要ポイントというところを意外とさらっと流してしまうので、調子が狂うけど、ホントにこの頃のハリウッドの文芸映画って、舞台中継的な撮り方が多いのだ。それはマスターショット方式ゆえにそう見えてしまうという部分もあるし、そもそも劇映画って極端にいえば舞台中継でいいのかもしれないよ。(凄いこと言うなあ)

■それ以降のお話は、映画のエンディングで未見の人には明かさないように注意書きがついているので言いませんよ。数十年前の映画だけど、今観ても非常に面白いし、全く古くないからね。幼い子どもに殺意があるのか?日本映画では野村芳太郎の『影の車』という傑作があって、その回答を見事に提示してみせるけど、もちろん本作を下敷きにしているはず。何しろ『影の車』は「通俗の王様」橋本忍野村芳太郎コンビなので、しっかりとホラーというか怪談テイストを盛り込んでいるところが嬉しいね。しかも映像表現としてかなり秀逸。

■本来のラストは嫌な余韻の残るアン・ハッピーエンドだったが、当時のヘイズ・コードに従って因果応報、勧善懲悪な形で決着するのだけど、さすがに無理矢理で、『サンダ対ガイラ』並の唐突さだ。しかも、カーテンコール形式でサイコパスの少女がお仕置きされる(いまではこれも虐待です)場面を設けて、ショッキングな内容を中和しようとする。公開当時、それほど衝撃的だったからだけど、実際今観ても内容的に古くない。舞台中継t的な映像表現と科白劇で、ちゃんとショッキングなスリラーが出来上がることを証明している。ホントに脚本がちゃんとできていれば、普通の劇映画のようにフラットにナチュラルに撮るだけで異常心理もサスペンスも醸成できるんだね。


ゲーム野郎がプロレースに参戦!お前(自身)のコースを走れ!『グランツーリスモ』(日本語吹き替え版)(感想/レビュー)

基本情報

Gran Turismo ★★★
2023 ヴィスタサイズ 134分 @イオンシネマ京都桂川(SC7)


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感想

スコープサイズかと思いきや、なんとヴィスタサイズで、IMAX上映をデフォルトと想定しているようだ。今どきだなあ。さて。

■ダニー(オーランド・ブルーム)は、ゲーム「グランツーリスモ」の覇者を実際のレーサーに育てるという「GTアカデミー」を思いつくと、日産本社にプレゼン、コーチとして元レーサーで現役を退いたジャック(デヴィッド・ハーバー)を起用する。英国の労働者階級のゲーマー青年ヤン(アーチー・マデクウィ)は過酷な選抜を勝ち抜き、遂に実地のレースに出馬するが。。。

■という、実にシンプルなお話で、実話。実際映画も非常にオーソドックスに良く出来た映画になっている。監督はニール・ブロムカンプなので心配したけど、誰が観ても納得の王道娯楽映画。ハリウッド映画らしいハリウッド映画といえるだろう。昨年は日本映画で、ほとんど同じようなお話の『アライブフーン』が公開されたが、その劇中でもヤンの実話が言及されていた。『アライブフーン』は知られざる快作で、CGを使わず、かなりクレージーな撮影が行われて観客の度肝を抜いたけど、本作は大メジャーなので、なにしろ製作費が100倍くらいかかっている。

■「GTアカデミー」の発案者のダニーは、一番の重要人物ではあるけど、かなり優柔不断な人物として描かれ、けっこうぶれまくる。一番優秀な成績を残したけど、マスコミ対応に心配があるのでヤンじゃなくて、二番手が合格でいいんじゃない?とか平気で言い出す。対するコーチ役のジャックはコレと決めたら一途な硬骨漢で、自分自身の事故体験を踏まえてヤンを人間的に成長させる。この二人の掛け合いがドラマ的な綾になるのだが、これは『フォードVSフェラーリ』の人間関係を踏襲しているかも。ただ、それほど成功していない気はする。特にダニーの人間性がいまいちピンとこない。これはジャックの引き立て役という意味合いを優先したせいかもしれない。

■とにかくお話は軽快にサクサク進むので、ホントにこれでドラマになるのかと心配するけど、後半にちゃんとヤンとジャックの間で、ヤンと父親の間でドラマが成立しているので、娯楽映画としては上出来。あまりこてこてに作劇していないのも、美点に思えてくる。ヤンのニュルブルクリンク24時間耐久レース事故を受けて、お前の価値はこれから何をするかで決まるんだと大人のアドバイスをするのも、定石ながらグッと来るし、クライマックスで、お前だけに見える、お前だけのコースを走れ(意訳)とサラッと映画のテーマを差し出して見せるあたりは、さすがに感動的。大きな声で叫んだり、泣き叫んだりしませんよ、映画において大事なことはサラリとさり気なく差し出すものなのだ。

■その意味では、意外にも見応えがあるし、カタルシスも大きい快作。もちろんレース場面はIMAX上映を意識して豪快に撮られているけど、なにしろ大予算のハリウッド映画なので危なげがない。でもそこは『アライブフーン』が勝負をかけたところで、低予算ながら作戦勝ちの部分。なにしろ撮影のクレージーなメソッドに圧倒されるし、ドリフト勝負というマニアックさも稀有のものがある。それに、あれは陣内孝則が良かったよね。(本田博太郎が良いのは言うまでもない)でも実は『グランツーリスモ』もノーCGにはこだわっていて、実写での撮影に相当執着しているらしい。映画職人たるもの、誰しも考えることは同じだね!
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■ちなみに、日本語吹き替え版はエンディングでT-SQUAREの「CLIMAX」が大音響で流れるのも聞きもので、たいそう気分良く映画館を出ることができる。日本語吹き替え版はいろいろ気になる部分もあるけど、これは聞きもの。シネコンの帰りに飛ばしすぎないように、要注意だ!


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おら、ロンドンさ行ぐだ?ポストコロナの吸血鬼にアレは効かない!意外な良作『ドラキュラ デメテル号最期の航海』(レビュー/感想)

基本情報

The Last Voyage of the Demeter ★★★☆
2023 スコープサイズ 119分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■19世紀末、ルーマニアのカルパチア地方からロンドンまで、謎めいた木箱を運ぶことになった帆船デメテル号。だが、航海中に犬や家畜が何者かに惨殺され、積み荷の中から瀕死の女が転がり出る。船は呪われている。不吉な航海は船員たちをつぎつぎと犠牲にしてゆくが。。。

■ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」からデメテル号の航海の部分だけを抜き出して映画化した異色作。製作はなぜかドリームワークスが参加し、監督はあの『トロール・ハンター』を撮ったアンドレ・ウーヴレダルで、撮影はトム・スターンという豪華版。いかにも地味な映画なので、渋すぎるかと危惧したが、ちゃんと活劇になっているから偉い。でも、とにかく映像が暗いから、映画館で観ないとトム・スターンの撮影の味はわからない。個人的にはもっとコントラストを強めにして、照明効果ももっとモノクロ映画的に様式的にしてほしいところだけど。

■主人公のクラレンス医師(コーリー・ホーキンズ)はケンブリッジ大学医学部初の黒人卒業生だが、差別により定職を得ることが出来ずルーマニアで食い詰めている。でも、船内で頻発する怪異は呪いや悪魔の仕業ではなく、科学的に解明できると信じている。この世界を知りたい、理解したい、それが願いだ。対する老練の船長は、世界は受け入れるものだと応える。さらりと登場人物の設定と、この映画のテーマを提示する。お話の主筋はありきたりのもので、怪異描写にもそれほど新鮮味はないけど、映画として筋が通っているし、終盤でちゃんと活劇としてのカタルシスを仕込んでいるし、コロナ禍で全世界が経験した悲劇や恐怖をモチーフとして下敷きにしつつ、マイノリティに対する差別との対峙まで盛り込んで、実はかなり盛りだくさんの脚本で、これが成功の鍵だった。

■船内には船長の孫の少年がいて、その終盤のエピソードはとても残酷だけど、よくできた場面で、その残酷さは映画のためのわざとらしいお涙頂戴の作りごとではなく、コロナ禍のなかでつい2,3年前にわれわれが経験した悲劇のリフレインなのだ。この場面はこの映画の肝で、この場面が成功すれば、その後の反撃のドラマに弾みがつくことになる。

■本作の吸血鬼は例のアレが通用しないという大きな改変が行われていて、それは主人公の近代的合理主義の思想と対を成していて、クライマックスの反撃の可能性を示唆する。コロナウィルスにアレが効かなかったのと同じように、本作の吸血鬼にも通用しないのだ。だからあれは悪魔でも魔物でもなく、腹も減るし、眠りもする獣(ビースト)なんだ。だから殺すことはできるはずだ!このあたりの展開は純粋に活劇として燃える。

■さらに、この時代のマイノリティとしてアナ(アシュリン・フランシオーシ)という娘(実はそんなに若くないらしい)が登場する。詳しくは書かないけど、これを安易に『エイリアン』のリプリーの二番煎じで戦うヒロイン的に扱うのかと思いきや、ちゃんと時代の犠牲者として描くところに、脚本の批評性と気骨がある。だから、最後に彼女が選択する自分の運命の決着には、迂闊にも泣かされる。自分の意志で選択して、生きることのできなかった時代、地域、そして女という性別。短い登場シーンのなかでの点描だけど、活劇映画だからこれでいいのだ。塩梅としてはベストだ。

■主人公はロンドン到着の前に、デメテル号とともに怪物を海底に葬り去ろうとするが。。。このあたりの段取りも即物的で物理的な活劇に落とし込まれているので、ホントに悪くない。ユニバーサルモンスターリブート企画は、結構混乱していて、『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』は超大作で大失敗、『透明人間』は小粒に仕立てて大成功、本作はその中間くらいの規模感だろうか。しっかり続編ありきの作りだけど、ヒットするかなあ?


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